朝はどのように始まり、訪問前の準備は何をするのか?
以下は「訪問看護の1日の流れ」の中でも、朝の始まり方と、実際に家を出る前の準備に焦点をあてた実務的な説明と、その根拠(なぜそうするのか・どの制度やガイドラインに基づくのか)の整理です。
事業所や地域により細部は異なりますが、日本の訪問看護ステーションで広く行われている標準的な流れをベースにしています。
朝はどう始まるか(出勤〜朝礼・申し送り)
– 出勤・身支度・衛生チェック
手洗い・手指衛生、ユニフォームと名札の確認、必要に応じて体温測定や体調申告を行います。
訪問は「医療の提供場所が利用者宅」になるため、事業所を出る前に衛生状態と健康状態を整えるのが原則です。
体調不良時は無理をせず配置換えや代替対応を早期に調整します。
– 朝礼(申し送り)での情報共有
前日の訪問内容の共有、夜間オンコールの引継ぎ、新規依頼や急変対応の振り返り、当日の注意点(感染症流行状況、気象・交通情報、災害警戒情報など)をチームで確認します。
新規利用者や退院直後の方、状態変化があった方の優先順位や訪問時間の調整もこの場で決めます。
医師・ケアマネジャー・訪問介護・薬局・リハ職など多職種連携が必要な事項は、誰が・いつ・どの手段で連絡するかまで役割を明確化します。
– 当日スケジュールの確定とルート設計
電子カルテや訪問スケジューラを用いて、訪問順序・所要時間・移動手段(車・自転車・徒歩・公共交通)の最適化を行います。
感染対策上は、清潔度の高い処置から汚染リスクの高い処置へ、免疫抑制の強い利用者は可能なら早い時間帯に、感染症疑いのある訪問は最後に回す等、交差感染を避ける並び替えを行います。
– リスク予測ミーティング(KYT的な一言注意喚起)
当日のヒヤリハット予兆(駐車場所が限られるお宅、階段が急な住宅、ペット・喫煙環境、積雪・猛暑・台風など)を短時間で共有し、具体的な回避策(時間前連絡、二人体制、装備強化、訪問順変更)を決めます。
訪問前の具体的な準備(持ち物・機器・連絡・安全確認)
– 計画・指示の確認
直近の訪問記録、バイタルや症状推移、医師の訪問看護指示書、訪問看護計画書を再確認します。
処置内容(創傷ケア、吸引、経管栄養、IV、カテーテル管理、リハビリ、内服管理支援など)ごとに必要物品を洗い出します。
変更指示(薬剤、処置頻度、禁忌など)が overnight で入っていないか、電子カルテ・FAX・電話記録をチェックします。
– 物品のパッキング(標準予防策に基づく)
訪問バッグに以下を携行します。
清潔ゾーンと不潔ゾーンを分けて収納し、取り出し手順を決めておくと現場での交差汚染を防げます。
・感染対策基本セット 速乾性手指消毒剤、手袋、サージカルマスク、アイシールド/ゴーグル、使い捨てエプロン、必要に応じてガウン、ヒビテン/アルコール綿、ペーパータオル、廃棄用の密閉袋(感染性/非感染性を分けられるもの)
・観察・計測機器 血圧計、体温計、パルスオキシメータ、聴診器、ペンライト。
電池残量や校正の確認を出発前に実施
・処置・ケア用品 滅菌ガーゼ、被覆材、創傷洗浄液(滅菌精製水等)、テープ類、剪刀・鑷子(滅菌/清潔管理できる収納)、吸引カテーテル・手動吸引器や携行吸引機(バッテリー残量確認)、経管栄養用のチューブ・注入器具、口腔ケアセット、陰部清潔用物品など、個々の処置に応じて最小限かつ不足のないように
・医薬品 事業所で管理する医薬品がある場合は使用期限・数量・保管条件(冷蔵/常温)を確認。
麻薬・向精神薬を携行する場合は帳簿や施錠保管容器を忘れず携行(持ち出しと返納の記録を厳格に)
・書類・端末 訪問記録用端末(充電・オフライン動作可の確認)、予備バッテリー、紙様式(同意書、説明書、緊急連絡先カード、計画書控え)、筆記具、名刺
・環境・安全 スリッパまたは上履き、訪問先での清掃用の消毒クロス、小規模な止血/救急セット(必要最小限)
– 廃棄物の取り扱い方針の確認
在宅で生じる廃棄物のうち、感染性廃棄物に該当するものの扱いは、事業所マニュアルと自治体ルールに沿っておく必要があります。
持ち帰りが必要なもの、家庭廃棄で差し支えないものの線引きを事前に確認し、必要な回収用資材を用意します。
– 個人情報保護と機密保持の準備
紙の個人情報は最小限だけ持ち出し、施錠できるバッグに収納。
電子端末はパスコード/リモートロック設定、画面のぞき見防止、通信が不調でも記録遅延が起きないようオフライン記録の手順を確認します。
利用者宅名や病状が第三者に露出しないよう、持ち物の表示にも配慮します。
– 連絡調整と事前コール
到着予定時刻の事前連絡、駐車位置・インターフォンの注意・ペット対応・鍵の受け渡し等の確認をします。
多職種の同席調整(医師往診、訪問リハ、訪問介護との同時訪問など)がある場合は、渋滞・天候を踏まえて5〜10分単位で再調整を行います。
– ルートと安全運転の準備
地図アプリ・ナビを設定し、駐車コインやETCカード、冬季はチェーンや雪用装備、猛暑は凍らせた保冷剤・飲料水を準備。
社用車のライト・ブレーキ・タイヤ・燃料・ドラレコの動作を点検し、自転車ならブレーキ・灯火類・ヘルメットを確認。
事故防止のため、時間的なゆとり(到着5分前行動)をスケジュールに組み込みます。
– 自身のコンディション管理
長時間の移動と反復的な持ち上げ・前傾姿勢が続くため、出発前に簡単なストレッチ、昼食・水分の準備、トイレ休憩の計画、防寒・防暑の服装を整えます。
香料は最小限(化学物質過敏症や悪心誘発に配慮)。
– チェックリストによるダブルチェック
「訪問先ごとの処置別チェックリスト」や「忘れ物防止リスト」で最終確認します。
特に電源が必要な機器のバッテリー、使い捨て物品の残数、同意書や保険証確認が必要な新規訪問では書類の有無を重点的に確認します。
これらの流れの根拠(制度・ガイドライン・実務上のリスク管理)
– 法令・制度の要請
・訪問看護は医師の訪問看護指示書に基づき提供することが前提で、計画書・記録の作成と保存、関係機関との連絡調整が指定基準で求められます。
よって出発前に指示・計画の確認と情報共有を行う朝礼が合理的です。
(根拠例 厚生労働省が定める指定訪問看護の人員・運営に関する基準、介護保険法・健康保険法における算定要件等)
・守秘義務と個人情報保護は看護職の法的義務であり、紙・電子情報の持ち出し管理や端末のセキュリティ確保は必須です。
(保健師助産師看護師法の守秘義務、個人情報保護法等)
・麻薬・向精神薬の携行や管理が絡む場合は、帳簿・施錠・数量管理が法令で求められ、出発前確認が不可欠です。
(麻薬及び向精神薬取締法等)
・交通安全は道路交通法に基づく安全運転義務があり、社用車・自転車の点検と余裕あるスケジューリングは事業者の安全配慮義務の一部です。
・近年は介護・在宅医療分野にもBCP(業務継続計画)の策定が求められ、気象・災害情報を踏まえた当日運行判断や優先度付けが推奨されています(厚労省の通知等)。
朝の段階での天候・感染状況の確認はこの流れに沿います。
– 感染予防の原則(標準予防策・交差感染防止)
・訪問先では医療機関のような中央供給がないため、「必要最小限だが不足しない物品準備」「清潔・不潔のゾーニング」「手指衛生の徹底」「清潔から不潔へ」という原則を、出発前のパッキングと訪問順序の設計で担保します。
これらは標準予防策(Standard Precautions)と在宅医療の感染対策指針(厚労省や日本看護協会が普及する実務ガイド)に一致します。
・免疫抑制状態の利用者を先に、感染症疑いを最後に回す並べ替えは、交差感染を最小化するための一般原則です。
必要なPPEの事前準備や廃棄物の持ち帰り体制の確認もこの枠組みの一部です。
– 医療安全・品質管理のエビデンス
・チェックリストの活用、ダブルチェック、申し送りの標準化は、誤薬・物品忘れ・取り違え・ヒューマンエラーを減らすことが多くの研究で示されています。
訪問看護は「移動とセットアップが多い医療」であるため、院内以上にチェックリストの効果が高い領域です。
・前夜や早朝の指示変更の見落としは重大事故につながるため、電子カルテ・FAX・電話記録の「最後の更新日・時刻」を出発前に確認することがリスク低減策になります。
– 記録と連携の要件
・訪問記録は法定の保存義務があり、月次の報告や多職種連携(ケアマネジャー、主治医、薬局等)に活用されます。
よって記録用端末の充電、通信が不調な場合の代替(紙様式やオフライン入力)が必要です。
– 労働安全と健康配慮
・猛暑・寒冷時の熱中症予防、積雪・台風時の安全確保は、労働安全衛生とサービス継続性の両面から重要で、朝の装備・飲料・移動計画の準備は合理性があります。
現場で役立つ実践的なポイント(小さなコツ)
– 訪問順序を「準備負担の軽い処置→重い処置」の順にして、バッテリーや物品消費のペースを読めるようにする。
– 吸引器や注入ポンプなど電源依存機器は、事業所で5分空運転して異音・異臭がないか確認。
予備の電池・電源コードを一緒のポーチに固定する。
– 新規訪問は同意書・説明資料・緊急連絡カードをセットでひと袋に。
帰所後のスキャン・保存フローまで想定してクリアファイルを色分けしておく。
– 訪問バックは「清潔面が上、不潔面が下」「取り出しは上から、片付けは下から」に揃えると、現場での迷いが減り、交差汚染も防げる。
– 5分前到着の原則を守るため、各訪問に「移動予備10分」を挟む。
渋滞時は早めに事務所・利用者に連絡し、焦っての事故を回避。
まとめ
– 朝は、衛生・体調の自己チェック、申し送りでの情報共有とリスク予測、スケジュールとルートの最適化から始まります。
– 訪問前の準備は、処置計画・医師指示の確認、PPEと処置物品のパッキング、機器・薬品・書類・端末の点検、個人情報保護と安全運転の準備、連絡調整とチェックリストでの最終確認、という順序で進みます。
– これらは、指定基準や守秘義務等の法令、標準予防策や在宅感染対策のガイドライン、医療安全の実証知見、BCPに基づく運行判断などに裏付けられた合理的なプロセスです。
補足
– 事業所ごとの運営マニュアル(感染対策、医療安全、個人情報保護、廃棄物処理、災害時対応、車両運行管理)が最上位の実務根拠になります。
地域の保健所・自治体が示す在宅医療の感染・廃棄物取り扱い指針も確認しておくと実務が安定します。
– 本回答は一般的な標準を整理したものです。
具体のルールや様式名、保存年限、算定要件の細部は、最新の厚生労働省通知、日本看護協会等のガイドライン、各保険者の取扱い、ステーションの内規で最終確認してください。
実際の訪問はどんな順序で進み、どのようなケアを提供するのか?
訪問看護の1日は、看護過程(アセスメント→計画→実施→評価)に沿って、複数の利用者宅を巡回しながら進みます。
順序は利用者の病状、感染対策、地理条件、家族の都合などを総合して組み立て、各訪問ごとに「状態把握→優先課題の決定→ケア実施→再評価→記録・連携」を一連のサイクルとして回します。
以下に、1日の流れと1件の訪問の具体、提供されるケア、そしてその根拠を詳しく解説します。
1日の大まかな流れ(例)
– 出勤・朝のカンファレンス
– 夜間オンコールからの引き継ぎ、医師からの新規指示、急変や入退院情報を共有
– 本日の訪問順序・訪問計画の最終調整(感染症の疑いがある方は最後に配置、重症・不安定な方は早めに)
– 物品準備(創傷ケアセット、カテーテル交換キット、PPE、吸引機材、緊急キット等)、感染対策の確認
– 午前の訪問(2〜3件)
– 各宅でのケアと記録、必要時はその場で医師・薬剤師・ケアマネに連絡
– 休憩・中間カンファレンス
– 午前の気づき共有、午後の計画微調整(状態変化の方の訪問追加・順番入替など)
– 午後の訪問(2〜3件)
– 事務所帰着・終業前業務
– 記録の確定、医師宛て報告、ケアマネへの月次報告書作成、物品補充・器具の洗浄消毒、オンコール担当へ引き継ぎ
訪問の順序を決める考え方
– 医療的リスクの高い方(不安定な心不全、呼吸状態不良、疼痛強い終末期など)を優先
– 感染予防の観点で、発熱・下痢・皮疹など感染が疑われる方は訪問の最後に回す
– 生活リズムや家族の介護時間帯(入浴時間、服薬時間、デイサービス前後)に合わせる
– 地理的効率性も考慮しつつ、緊急介入の可能性がある方に備え余裕を残す
1件の訪問はどう進むか(標準的な流れ)
1) 到着前の準備
– 訪問目的・医師指示(訪問看護指示書)・前回記録を再確認
– 手指衛生、必要なPPEの着脱計画(標準予防策、必要時は接触・飛沫等の追加予防策)
2) 到着・導入
– あいさつ、本人確認、プライバシー配慮
– 今日の体調・希望の聴取(主訴や生活上の困りごとの把握)
3) 全身アセスメント
– バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・SpO2・呼吸数)
– 意識・痛み・呼吸音・心音・浮腫・脱水徴候・栄養状態・口腔内・皮膚(発赤・褥瘡)・排泄状況
– リスク評価(転倒、誤嚥、褥瘡、服薬ミス、虐待や介護疲労などの社会的リスク)
4) ケアの実施(個別計画に基づく)
– 生活支援と清潔ケア
– 清拭・部分浴・入浴介助、口腔ケア、整髪・爪切り、スキンケア、体位変換とポジショニング
– 病状管理・医療処置
– 服薬管理(セット、残薬・副作用確認、自己注射/吸入の支援)
– 血糖測定・インスリン、血圧・体重モニタリング(心不全等の増悪徴候を早期発見)
– 呼吸ケア(痰の吸引、ネブライザー、在宅酸素管理、呼吸理学療法)
– 創傷ケア・褥瘡ケア(洗浄、デブリドマンの介助、適切なドレッシング材の選択、圧再分配)
– 留置カテーテル・ストーマ・胃ろう・気管カニューレ等の管理・交換
– 疼痛管理(疼痛評価、内外用薬・PCAの確認、緩和ケア的介入)
– リハビリテーション・セルフケア支援
– 関節可動域訓練、筋力・歩行訓練、呼吸訓練、ADL練習、住環境調整の助言
– 疾患別の教育・生活指導
– 心不全 塩分・水分管理、体重・浮腫チェック、息切れの悪化サイン
– COPD・喘息 吸入手技、呼吸法、増悪時対応
– 糖尿病 フットケア、低血糖予防、食事・運動
– 認知症 BPSDへの対応、見守りと安全対策
– 家族支援と介護技術の指導
– 体位変換・移乗、口腔・排泄ケア、与薬手順、感染対策、緊急時連絡体制
– 終末期・看取り支援(該当時)
– 痛み・息苦しさ・不安の緩和、ACPの確認、家族のグリーフケア
5) 再評価と整理
– 介入後のバイタル・症状再評価、次回までの観察ポイントとセルフケア課題の確認
– 記録(訪問記録・報告書)、必要な情報共有(医師、薬剤師、ケアマネ、リハ職等へ迅速報告)
– 感染性廃棄物の適正処理、器具の清拭・消毒、手指衛生
提供ケアの根拠(主なエビデンス・指針)
– 看護過程に基づく訪問の流れ
– 診療の継続性と安全性を担保するため、アセスメント→計画→実施→評価の順でケアを行うことは、日本看護協会や厚生労働省の訪問看護関連手引き・業務指針で標準化されている。
– 訪問順序の工夫(感染者を最後に、重症度優先)
– 標準予防策と追加予防策の原則、交差感染の最小化は日本環境感染学会・WHOの手指衛生と在宅医療の感染対策推奨に一致。
感染疑いを最後に訪問するのは院内外で広く推奨される基本戦略。
– バイタルサインと全身評価の先行
– 異常の早期発見は再入院や急変の回避に直結。
慢性心不全やCOPDでは日々の計測(体重、SpO2、呼吸数)が増悪予測に有用で、国内外ガイドライン(例 日本循環器学会心不全ガイドライン、呼吸リハ推奨)で推奨。
– 口腔ケアの実施
– 高齢者の誤嚥性肺炎予防に口腔ケアが有効であることはランダム化試験等で示されており(例 要介護高齢者での専門的口腔ケア介入で肺炎発症減少)、介護・在宅領域で強く推奨。
– 褥瘡予防・ケア
– 体圧分散、体位変換、皮膚観察、栄養介入の効果は日本褥瘡学会の褥瘡予防・管理ガイドラインで推奨。
画一的な「2時間ごと」ではなくリスク評価(Braden等)に基づく個別計画が望ましいとされる。
– 呼吸ケア・呼吸リハ
– 呼吸理学療法、呼吸筋訓練、排痰支援はCOPD等で運動耐容能やQOL改善のエビデンスがあり、ATS/ERSおよび国内学会が推奨。
在宅酸素やNPPVの管理手順も各学会指針に準拠。
– 服薬管理・ポリファーマシー是正
– 高齢者の過少・過量服薬は転倒や入院リスクを高める。
日本老年医学会のポリファーマシー適正化ガイドや厚労省の適正処方推進で、内服状況の点検・多職種連携の薬剤調整が推奨。
– 糖尿病の自己管理支援・フットケア
– 足病変予防と潰瘍・切断リスク低減にフットケア教育が有効で、ADAなどのガイドラインに一致。
– 転倒予防
– 住環境調整、運動・バランストレーニング、薬剤見直しは多くのガイドラインで推奨され、在宅高齢者の転倒リスク低減に有効。
厚労省の高齢者安全対策や国際的推奨(例 CDC STEADI)と整合。
– 疼痛管理・緩和ケア
– 痛み・呼吸困難・不安への包括的緩和はQOL向上と在宅療養継続に寄与。
日本緩和医療学会のがん疼痛管理/緩和ケアガイドライン、WHOの緩和ケア原則に基づく。
– 早期の連携・情報共有
– 医師・薬剤師・リハ職・ケアマネへのタイムリーな報告は再入院率低下や有害事象予防に関連し、地域包括ケアの中核要件として厚労省が推奨。
介護保険では訪問看護計画書・報告書の作成と月次共有が求められる。
– 感染対策と医療廃棄物処理
– 手指衛生の「5つのタイミング」(WHO)や在宅での標準予防策、鋭利物の安全管理、感染性廃棄物の法令に基づく処理は必須で、日本環境感染学会や自治体マニュアルに準拠。
夜間・緊急時の流れ(オンコール)
– 連絡を受けたらトリアージ(呼吸困難、胸痛、出血、意識障害、急性疼痛増悪などの重篤サインを評価)
– 必要時は救急要請・主治医連絡・臨時訪問。
酸素調整、疼痛緩和、創部出血の圧迫止血、発熱時の観察ポイント指導等を実施
– 翌朝のチーム共有と計画修正
記録と法的整備
– 訪問看護指示書に基づく計画・記録・報告を整備し、医療保険・介護保険の要件に合致させる
– 連絡ノートやICTで本人・家族と多職種が情報を一元化。
インフォームド・コンセントとプライバシー保護の徹底
まとめ
– 訪問看護の実際は、朝の情報共有と優先度に基づく訪問順の決定に始まり、各宅でアセスメント→優先課題のケア→再評価→記録・連携を繰り返し、終業時に1日の学びと変化を次へつなげます。
– 提供ケアは清潔・栄養・排泄・活動といった基礎的生活支援から、創傷・呼吸・循環・糖尿病・認知症・緩和ケアなど高度な医療処置まで多岐にわたり、いずれも国内外のガイドラインやエビデンスに基づいて標準化されています。
– 訪問順序の工夫、初期評価の徹底、感染対策、家族支援、迅速な多職種連携が、在宅療養の安全・安心と再入院予防、QOL向上の鍵です。
参考のよりどころ(例)
– 厚生労働省「訪問看護の手引き」「在宅医療・介護連携の推進」関連資料
– 日本看護協会 訪問看護業務の手引き・看護過程関連資料
– 日本環境感染学会/WHO 手指衛生・在宅医療における感染対策
– 日本褥瘡学会 褥瘡予防・管理ガイドライン
– 日本循環器学会 心不全診療ガイドライン
– 呼吸リハビリテーション(ATS/ERS、国内関連学会)推奨
– 日本老年医学会 ポリファーマシー適正化ガイドライン
– 日本緩和医療学会 緩和ケア・がん疼痛管理ガイドライン
– 誤嚥性肺炎予防に関する口腔ケア介入研究(高齢者施設・在宅高齢者でのエビデンス)
上記のような根拠に基づき、訪問看護は「適切な順序で」「必要なケアを」「必要なタイミングで」提供し、本人と家族の生活を支えることを目的に運用されています。
ご家族や多職種との連携は一日のどの場面でどう行うのか?
以下は、訪問看護ステーションの一般的な1日の流れの中で、「ご家族」と「多職種」との連携が、どの時点で、どのような方法で行われるかを具体例を交えて整理したものです。
事業所により運用は多少異なりますが、制度や報酬、指示書等の枠組みによる共通点が多くあります。
最後に根拠・制度上の位置づけもまとめます。
出勤直後(朝のカンファレンス・当日計画のすり合わせ)
– 何をするか
– 前日までの経過や夜間オンコールの対応内容をチームで共有。
– バイタル悪化や転倒など「本日優先すべき観察点」「緊急度の見直し」を合意。
– 退院予定者や看取り期など調整が必要なケースは、主治医・ケアマネ・訪問介護・リハ職(PT/OT/ST)との連絡担当を決める。
– 家族・多職種への連携
– 受診同行の時間調整、訪問介護のヘルパーとの役割分担(例 午前はヘルパーが清拭、午後に看護で褥瘡処置)。
– 必要に応じてケアマネへ当日中の報告予定を先に告知。
– ポイント
– 朝の段階でSBAR(状況・背景・評価・提案)を使って「誰に何を、いつまでに伝えるか」を明確化。
訪問前(事前連絡と指示確認)
– 家族への連絡
– 当日の訪問時間帯の再確認、同席可能かの確認、発熱や体調変化の有無を電話で聴取。
– 医師・薬局・リハ職との連絡
– 前回の観察で必要と判断した指示(鎮痛薬の増減、採血の可否、点滴オーダー等)を主治医に確認。
– 服薬アドヒアランスや副作用が懸念される場合は薬剤師へ情報提供と疑義照会。
– 福祉用具/訪問介護
– 移乗時のリスクが高い場合、同時間帯に福祉用具専門相談員やヘルパーと「合同訪問」をセッティング。
訪問中(家族同席での観察・支援・教育)
– 家族との関わり方
– 到着時の挨拶と本日の目標共有(例 疼痛コントロール確認、褥瘡処置の手順練習)。
– 生活上の変化(食事量、睡眠、排泄、転倒兆候、介護負担感、介護者の体調)を聴取。
– 介護技術の実地指導(体位変換、吸引、経管栄養、ストーマケア、インスリン注射、褥瘡予防)と安全管理のポイントを共同で確認。
– 症状悪化の早期サイン、緊急連絡先、夜間の対処法を再確認。
看取り期は予期される変化を前広に説明し不安軽減。
– 多職種とのその場連携
– 変調や新規症状があれば、家族の同意を得て主治医に電話連絡し、その場で処方や検査の指示を受ける。
– 摂食嚥下困難やリハ課題はST/PT/OTに動画や記録を共有してプログラム調整。
– 薬剤師へは残薬状況・副作用・自己中断の有無を伝え、分包や飲み忘れ対策(お薬カレンダー等)を検討。
– 歯科衛生士と口腔ケアの役割分担(看護 毎日のケア指導、歯科 専門的口腔ケアの頻度設定)を確認。
– 記録と情報同意
– 訪問看護記録書へのリアルタイム記載、必要に応じて創傷の経過写真を同意の上で撮影しチーム共有。
訪問直後〜移動中(即時報告・次アクションの手配)
– 何をするか
– 急性変化や医師指示の発出があった場合は、直後にケアマネへ電話・メールで要点報告。
– 当日中に訪問介護やデイサービスのメニュー変更が必要な場合は事業所へ連絡。
– 退院直後や看取り期では「家族の不安度」も含めた心理面の情報を共有。
– ツール
– セキュアなモバイル電子カルテ/連携アプリでチームに即時配信。
FAXや訪問連絡票を併用する地域も多い。
昼の帰所(小カンファ・文書作成)
– チーム内共有
– 午前の所見から午後の訪問計画を微修正。
リスクが高い家庭には二人体制訪問に変更。
– 文書と計画
– 訪問看護計画書の更新、ケアマネ向け経過報告書の作成、主治医への診療情報提供(必要時)。
– 退院前後であれば退院支援カンファレンス用の「要点サマリー」を準備。
午後の訪問(合同訪問・環境調整が入りやすい時間帯)
– 合同訪問の例
– PTと一緒に福祉用具選定と移乗訓練、住宅改修の助言(手すり位置、段差解消等)。
– 医師の往診に同席し、創傷の状態や疼痛スケール、家族の介護力を看護側から補足。
– 歯科や管理栄養士の訪問に合わせ、誤嚥リスクや栄養管理の目標を統一。
– 家族支援の継続
– レスパイト(ショートステイ、通所)の活用提案、介護者の健康受診勧奨、虐待防止・ヤングケアラー配慮など社会資源の橋渡しをMSWや地域包括支援センターと連携。
夕方の帰所(記録確定・一斉連絡・翌日の布石)
– 記録と報告
– 電子カルテの記録確定、医師・ケアマネへの日次報告送信、緊急度高い案件は電話で口頭補足。
– 翌日の調整
– 医師指示書の更新依頼、採血や検査キットの準備、必要物品(スキンケア材、チューブ類)の手配。
– チーム内申し送り
– 夜間オンコール者へ「要注意ポイント」を簡潔に伝達。
夜間・早朝(24時間連絡体制の運用)
– 家族からのコール
– 痛み・呼吸苦・発熱・カテーテルトラブル等の相談に電話助言。
必要時は緊急訪問。
– 医師等との連携
– 緊急訪問後は主治医に状況報告と追加指示確認。
看取り時は死亡確認の段取り、葬祭・行政手続きの初期案内も含む多職種連携。
定期的な場面(週〜月単位の連携)
– サービス担当者会議
– ケアマネ主催で定期開催。
看護は病状経過、リスク評価、ケア目標、家族の負担感や学習到達度を報告し、各サービスの役割を再調整。
– 退院前後カンファレンス
– 病院の医師・看護師・MSWと訪問側(医師、看護、リハ、ケアマネ)が集まり、在宅受け入れ条件、物品、緊急時体制を具体化。
退院日当日の共同訪問をセットすることも多い。
– 研修・地域連携会議
– 在宅医療・介護連携推進事業の会議や勉強会で顔の見える関係づくり。
災害BCPや感染症流行期の連絡網整備もここで確認。
連携の実践ポイント(失敗しにくいコツ)
– 情報の優先順位をつけ、SBARで簡潔に伝える(特に医師・夜間帯)。
– 家族が「何を理解し、何に不安があるか」を毎回確認し、短い教育目標を1つずつ積み上げる。
– 合同訪問で「見る・やってみる・振り返る」の学習サイクルを作る。
– 個人情報は同意範囲内で共有し、写真や動画は目的・保管先を明示して取得同意を得る。
制度・根拠(要点)
– 医師の指示に基づく業務
– 訪問看護は主治医の「訪問看護指示書」に基づき実施することが法令・診療報酬/介護報酬上の前提。
処置変更・投薬調整などは医師指示が必要。
– 記録・報告の義務
– 訪問看護計画書・訪問看護記録書(通称Ⅰ・Ⅱ)等を整備し、必要に応じて主治医・ケアマネに情報提供することが指定基準・運営基準で求められる。
– 多職種連携の制度的位置づけ
– 介護保険制度ではケアマネがケアプランに基づき「サービス担当者会議」を開催し、サービス間の役割分担と目標共有を図ることが義務づけられている。
訪問看護はここで医療面・生活面の情報を共有。
– 退院支援・在宅療養移行では病院・在宅側のカンファレンスや共同指導が診療報酬・介護報酬で評価され、文書連携・退院前後の調整が推奨・評価されている。
– 24時間連絡体制と緊急対応
– 診療報酬・介護報酬には「24時間連絡体制」「緊急時訪問」等の評価があり、夜間・早朝を含む連絡・出動体制の整備とその記録が求められる。
– 他職種の在宅サービスとの役割
– 薬剤師の居宅療養管理指導、歯科・管理栄養士の訪問指導、PT/OT/STの訪問リハビリは医師の指示やケアプランに基づき提供され、訪問看護はこれらと計画をすり合わせる。
– 地域包括ケアの枠組み
– 地域包括支援センターや在宅医療・介護連携推進事業により、顔の見える関係構築、ハイリスク事例の情報共有、災害時連携の体制整備が位置づけられている。
まとめ
– 家族連携は「訪問前の体調確認」「訪問中の観察・技術指導・心理支援」「緊急時連絡」「定期的な目標共有」という4つの場面が柱。
– 多職種連携は「朝の段取り」「訪問中の即時連絡・合同訪問」「昼夕の文書・報告」「定期会議と退院前後カンファレンス」の4層で回る。
– これらは医師の指示書、指定基準、介護保険のサービス担当者会議、各種加算で制度的に裏づけられており、記録と情報共有が質と安全を担保する。
以上を意識すると、1日の流れの中で「いつ、誰に、何を、どう伝えるか」が明確になり、家族支援と多職種連携の質が安定します。
突発的な対応や緊急時にはどのように切り替え・対処するのか?
ご質問の趣旨(訪問看護の1日の流れの中で、突発的対応や緊急時にどう切り替え・対処するか)に沿って、現場で実際に機能している運用・判断の考え方、標準的な手順、役割分担、よくある事例別の対応、記録や請求・法制度上の根拠、教育・予防までをまとめて解説します。
基本の考え方(切り替えの原則)
– 安全優先・時間優先の原則 命に関わる兆候(気道・呼吸・循環、意識障害、急性胸痛、片麻痺など)は、予定訪問よりも最優先で介入。
必要時は直近の訪問計画を「遅延・振替・代替派遣」に切り替える。
– トリアージと段階的エスカレーション ①電話トリアージ(利用者・家族・施設からの連絡)→②現地一次評価(ABC、バイタル、意識)→③医師への報告・指示受け→④救急要請119の判断→⑤搬送後の連携・後処理。
– 権限と指示書の運用 訪問看護指示書・特別訪問看護指示書(14日以内の急性増悪期)・包括的指示の範囲で看護師が即応。
新規の医行為は必ず医師の指示を受ける。
– 二重のタイムライン管理 目の前の臨床対応と同時に、事務所側でスケジュール再編(遅延連絡、代替派遣、オンコール招集)を並行して走らせる。
緊急時の標準フロー(現場での流れ)
– 受電・起動
– 24時間連絡体制の電話/PHS/アプリに連絡 → 看護師がSBAR(状況・背景・評価・提案)で聴取。
出現時間、最終正常確認、症状推移、既往、内服、DNR/搬送方針を確認。
– 生命危機が疑わしければ、家族に119を先行要請してもらい、並行して看護師も出動。
– 現地一次評価
– ABC(気道・呼吸・循環)+意識(JCS/AVPU)、SpO2、血圧、脈拍、体温、疼痛、皮膚色、尿量、糖測定(糖尿病)など。
– 脳卒中疑いはFAST/片麻痺、心血管は胸痛・冷汗・放散痛、敗血症はバイタル変動と意識、呼吸不全はSpO2・呼吸回数で即判定。
– 直ちに行う介入(指示内)
– 体位(気道確保、端座位、回復体位)、吸引、酸素の流量調整(指示あり)、加温・保温、ブドウ糖投与(経口/グルカゴン指示あり)、疼痛緩和(頓用指示)、気切・カニューレトラブルの一時対応、出血圧迫・固定など。
– エスカレーション
– 医師へSBAR報告。
搬送要否、臨時指示、在宅での経過観察ラインを協議。
– 搬送が必要なら119要請。
発症時刻、基礎疾患、内服、アレルギー、バイタル、DNRの有無、主治医連絡先を救急隊へ即時共有。
– バックヤードの切り替え
– 事務所は同時に他利用者へ遅延連絡、代替看護師の派遣、必要物品の再配分、ケアマネ・主治医・家族への情報共有。
– 記録・請求
– 発症~連絡~到着~評価~介入~指示~搬送引継ぎまでのタイムラインと数値、電話記録、使用薬剤・物品、同席者を即時記録。
– 対応内容に応じ、医療保険・介護保険それぞれの緊急加算・時間外の算定要件を確認。
スケジュールと人員の切り替え(実務)
– 優先順位付け 重症度・緊急度・依存度で並べ替え。
服薬のみ等は電話フォローや翌日振替、褥瘡処置や終末期疼痛緩和は代替派遣を優先。
– ロール分担
– フィールドナース 現地診断・介入・連絡。
– コーディネーター/管理者 スケジュール再編、関係機関連絡、請求・指示書整理、家族支援。
– オンコール/バックアップ 追加出動、物品搬送。
– 通信と可視化 EMRのリアルタイム更新、グループ通話、セキュアチャットで状況を共有し、二重派遣・情報取りこぼしを防止。
代表的な緊急ケースと実際の対応
– 呼吸苦・SpO2低下(COPD/心不全/肺炎など)
– 体位調整、呼吸介助、吸引、酸素流量調整(指示範囲内)、バイタル連続測定。
– チアノーゼや会話困難、SpO2 90%未満持続では搬送を早期判断。
利尿薬・ステロイド・抗菌薬は医師と適応判断。
– 胸痛・ACS疑い
– 安静、バイタル連続、ニトロ(処方あり時のみ)、アスピリンの事前同意がない限り投与は医師判断を仰ぐ。
– ST上昇疑い・冷汗・徐脈/頻脈など不安定所見で直ちに119。
– 脳卒中疑い
– 発症時刻(last known well)を必ず特定。
片麻痺、構音障害、顔面麻痺、視野欠損など陽性なら脳卒中救急へ。
– 低血糖
– 意識あり 経口糖補給。
意識障害 グルカゴン筋注(指示あり)、回復体位、119。
– 発熱・感染症(COVID-19含む)
– PPEで入室、重症度評価、脱水管理、検査・解熱薬は指示内で。
濃厚接触や施設内拡大を防ぐ隔離導線と訪問順の最後回し。
– 転倒・外傷
– 頸椎含む安静固定、出血圧迫、疼痛評価。
抗凝固薬内服なら頭部外傷は低閾値で搬送。
– 精神科領域のクライシス
– 環境刺激の調整、傾聴・短文指示、安全確保。
自傷他害リスクで家族・主治医・地域支援・警察と連携し保護要請を検討。
– 終末期の看取り直前・直後対応
– 症状緩和(モルヒネ・ミダゾラム等は包括指示の範囲で)、家族の意思確認。
死亡確認は看護師が生体兆候の消失を確認し、死亡診断は医師が行う。
事前の看取り計画と連携図が鍵。
– 医療機器トラブル(在宅人工呼吸器・胃瘻ポンプ等)
– バックアップ電源・予備機への切替手順を事前に家族と共有。
業者ホットラインと三者通話、必要時は在宅主治医と搬送判断。
事故・インシデント後の対応と学習
– インシデント/アクシデント報告書の即時作成、事実と推定を分けて記載。
– カンファレンスで根本原因分析(ヒト・モノ・環境・仕組み)、再発防止策(手順改訂、チェックリスト化、物品配置見直し、教育)をPDCAで回す。
– 家族への説明は誠実・迅速・具体的に。
必要時は医療安全支援センターとも連携。
予防と準備(緊急を起こさない/起きても被害を最小化)
– リスク層別化と個別緊急対応計画
– 心不全・COPD・糖尿病・終末期・独居・精神疾患・医療機器使用者はハイリスクとして、悪化サイン、家族の役割、連絡先、搬送合意、DNARの有無をケアプランに明記。
– 家族・介護者教育
– 119の呼び方、AED設置場所、低血糖時のジュース準備、酸素ボンベ残量確認、カニューレ交換、体位変換の方法を具体的に練習。
– 設備・物品
– 携行用の救急セット(吸引、酸素、パルスオキシメータ、血糖測定、止血材、バックアップ回線)。
PPE在庫とサイズ管理。
– 訓練・シミュレーション
– BLS(日本蘇生協議会準拠)、気切・PEG・在宅呼吸器トラブルのシナリオ訓練、電話トリアージロールプレイ、夜間想定のオンコール模擬。
– 災害・感染症BCP
– 大規模停電・断水・豪雪・道路遮断・新興感染症の事業継続計画。
優先訪問リスト、代替ルート、広域連絡網、安否確認手順。
保険・制度上の枠組み(対処の根拠)
– 訪問看護指示書/特別訪問看護指示書
– 急性増悪期(14日以内)の「特別指示書」により、頻回訪問や医学的処置の柔軟な実施が可能。
急変対応の裁量を実務的に担保。
– 24時間対応体制・緊急時加算(介護保険)
– 24時間連絡と臨時訪問が可能な体制を整えた事業所は加算算定が認められ、オンコール・臨時出動の費用面を支える。
緊急時訪問看護加算も規定。
– 医療保険での時間外・緊急対応
– 医療的必要性に基づく臨時・時間外訪問の評価があり、夜間・深夜帯を含む急変対応の実施根拠となる。
– 看護師の業務範囲と判断
– 療養上の世話と診療の補助の範囲で、医師の包括的指示に基づく処置(吸引、酸素調整、創処置、注射等)が定義。
新規投薬や侵襲的手技は必ず指示を要す。
– 死亡時の対応
– 看護師の死亡確認行為(生体兆候の消失確認)は看護実践として位置付けられるが、死亡診断書は医師。
看取り体制と遠隔診療の活用が整理されつつある。
– 事業継続計画(BCP)の義務化
– 介護報酬改定で在宅系サービスも感染症・災害時BCPの策定・訓練が求められ、緊急対応力の制度的基盤となる。
実例でみる運用(簡略ケース)
– 1110 独居利用者から「息が苦しい」。
受電看護師がSBARで聴取、会話途切れ・SpO2 86%と判明。
家族に119要請依頼、看護師出動。
– 1122 到着。
端座位、吸引、酸素3L→SpO2 90%。
冷汗・頻呼吸、下腿浮腫あり。
心不全増悪疑いで主治医へ報告、救急搬送決定。
– 1135 救急隊引継ぎ。
直近2件の訪問は事務所が家族に遅延連絡、他看護師を代替派遣。
処置内容・時刻をEMR記録、緊急加算の要件確認。
– 1400 病院から入院連絡。
ケアマネと情報共有、退院後の再開準備に入る。
– 翌日 朝礼でケース振り返り、電話トリアージの問いの順序を改善することを決定。
コミュニケーションの要点(ミスを防ぐコツ)
– SBARで話す・書く。
時刻・数値・介入・反応を短く正確に。
– “最後に正常だった時刻”を必ず把握(脳卒中・けいれんで予後に直結)。
– DNR/搬送方針は平時に合意形成し、ファイル先頭とEMRに明記。
– 電話は復唱、口頭指示は聞き間違い防止のダブルチェック。
エビデンス・根拠(主な出典・指針)
– 厚生労働省/日本訪問看護財団「訪問看護の手引き」 訪問看護の体制、指示書、緊急時対応、加算の考え方が整理。
– 厚生労働省通知・報酬告示(医療/介護) 24時間対応体制加算、緊急時訪問看護加算、特別訪問看護指示書の運用根拠。
– 療養上の世話及び診療の補助に係る看護師の判断指針(厚労省) 看護師が指示の下で実施できる医行為の範囲。
– 日本蘇生協議会JRC蘇生ガイドライン(2020/2025) BLS/ALSの一次対応手順(ABC、意識・呼吸評価、胸骨圧迫の適応等)。
– 日本環境感染学会 在宅医療における感染対策指針 PPE、訪問順、環境整備、曝露後対応の標準。
– 介護報酬改定関連通知(BCP義務化) 災害・感染症時の事業継続体制整備。
– 日本在宅医療連合学会・日本看護協会の在宅急変対応・看取りガイド 事前合意形成、死亡時対応、遠隔連携の実務指針。
まとめ
– 突発・緊急時の要は「迅速なトリアージ」「現場介入とバックヤード切り替えの同時並行」「明確な権限と指示」「標準化された伝達(SBAR)」「正確な記録」と「事後の学習」です。
これらは厚労省の手引きや各学会のガイドライン、保険制度上の加算要件、看護師の業務範囲に裏付けられています。
事前の準備(家族教育、個別緊急計画、物品・BCP、反復訓練)ができているほど、当日の切り替えは速く安全に運びます。
記録・振り返り・明日の段取りは終業前にどうまとめるのか?
ご質問の「訪問看護の1日の流れ」のうち、終業前に行う記録・振り返り・明日の段取りについて、現場で実践しやすい手順と、法令・ガイドラインに基づく根拠を交えて詳しくお伝えします。
以下は多くの訪問看護ステーションで標準的に用いられている流れです(電子カルテ運用や直行直帰の有無などで運用差はありますが、考え方の柱は同じです)。
1) 終業前の記録のまとめ方(抜け漏れゼロ・翌日につながる記録)
– 訪問ごとの実施記録を即時性・連続性・真正性の3点で整える
– いつ(訪問開始・終了時刻)、どこへ、誰が、何を、どのくらい、なぜ行ったか、結果はどうだったかを明確にします。
– 記載形式はSOAPが最も普及。
例
– S(主観) 夜間せん妄で不眠、家族も疲弊気味。
– O(客観) BT36.8、BP122/68、HR78、SpO2 96%RA。
創部5×3cm、滲出少量、発赤軽度。
摂食量朝5割。
内服残1。
– A(評価) 疼痛コントロール不十分、睡眠リズム悪化。
感染兆候なし。
家族の介護負担増大。
– P(計画) 医師へ鎮痛調整を照会(本日FAX)。
睡眠衛生指導の継続。
創処置は明日も同手順。
ケアマネへ家族支援の相談を連絡。
– 加算・請求の根拠になる要素(所要時間、複数名訪問の有無、特別管理の該当、緊急時対応の有無、指導内容)を明記します。
– 訪問看護記録書I(利用者宅に留置)とII(事業所保管)の使い分け
– I その日の要点・注意点を簡潔に。
次回来訪者(ヘルパー・リハ職含む)が安全にケアを継続できる情報を中心に。
– II 保険請求や臨床判断の根拠になる詳細記録(観察所見、評価、実施手技、教育・指導、使用物品、リスク管理、連絡履歴等)。
– 電子カルテでは真正性・見読性・保存性を担保
– 個人IDでログイン、タイムスタンプ自動付与、訂正履歴の残存、オフライン入力時の同期ルールを厳守。
– 音声入力・テンプレート・定型文を使い、記録品質を落とさずに時間短縮。
– 月次書類・連携文書の下書きまで終える
– 訪問看護計画書の更新(目標・介入の妥当性、達成度)、月次訪問看護報告書の素案(状態変化、医療的管理、課題)。
– 医師・ケアマネ・薬局・訪問診療への連絡文面(問い合わせ事項、提案、報告)を下書きし、送付期限を設定。
– 実績入力と算定要件のチェック
– 保険区分(医療・介護)、特別指示書の有効期限、訪問時間帯(早朝・夜間・深夜)、複数名訪問、長時間訪問の適否を確認。
– 24時間対応体制加算、緊急時訪問看護加算、特別管理加算(在宅酸素・IVH・人工呼吸器等)の該当条件と記録の整合を確認。
– チーム共有(申し送り・アラート掲示)
– ハイリスク利用者(看取り期、退院直後、感染症、褥瘡悪化)をリスト化し、明日以降の担当へアラート。
– 連絡待ち事項(医師返答待ち等)は誰が、いつまでに、どの手段で対応するかをタスク化。
2) 振り返り(リフレクション)で質と安全を高める
– 個人振り返り
– KPT(Keep/Problem/Try)やGibbsのリフレクションを使い、臨床判断・コミュニケーション・時間配分の改善点を短時間で言語化。
– ヒヤリ・ハットは小さな事象でも即日で簡易フォームに入力(当日記録のうちが最も事実関係が明確)。
– ミニカンファレンス(5~15分)
– 終末期・看取り見込みケース、医療依存度が高いケース、新規導入直後のケースを中心に、評価と次の一手(Plan)を合意形成。
– 倫理的課題(本人意思と家族希望の不一致等)や在宅継続の可否に関わる論点は、管理者同席で方針を明確に。
– 感染対策・安全の日次点検
– バックの補充・期限確認、鋭利物・感染性廃棄物の始末、車両内保管の温度管理物品の確認。
– 針刺し・転倒・誤薬・誤嚥などのリスク評価の見直しを記録に反映。
– 教育・標準化
– 新人・中途・非常勤へのフィードバック、標準手順書(創処置、吸引、経管栄養、ストマケア等)との整合確認。
– バラつきが出たケアは、その場でマイクロ手順を改訂し、翌日から適用。
3) 明日の段取り(ルート・連携・物品・リスクの先手対応)
– スケジュール確定とルート最適化
– 訪問時間枠の確定、移動時間見込み、直行直帰の指示、代行者の設定、気象・交通障害時の代替案。
– 看取りや不安定ケースはバッファを厚めに、重複訪問(複数名訪問)の組み方を先に押さえる。
– 連携調整
– 医師への照会事項(薬剤調整、特別指示書発行、検査依頼)、ケアマネへの相談(支援強化、サービス調整)、薬局(残薬調整、配薬変更)。
– 訪問リハ・訪問介護・福祉用具との役割分担と連絡(カンファレンス予定、申し送り事項)。
– 物品・書類準備
– 個別物品(カテーテル、ドレッシング、栄養剤、PPE、陰圧閉鎖療法資材等)のピッキングと個別袋詰め、数・サイズ・ロット確認。
– 書類(計画書、同意書、説明書、評価票)の印刷・電子署名段取り。
– 医師指示書・特別指示書の期限確認、更新が必要な場合は翌朝一番の連絡予約。
– オンコール・緊急体制
– 当番者・予備連絡先・緊急キット・貸与携帯の確認、緊急想定(出血・呼吸苦・疼痛増悪・最期のとき)の行動手順再確認。
– 看取り見込みのご家族へ、夜間の連絡手順を日中のうちに再案内。
– 新規導入・退院調整の特記事項
– 初回訪問はアセスメント票、包括同意書、重要事項説明、バイタル標準値、感染症スクリーニング、緊急連絡カードをセットで。
– 退院直後ケースは退院サマリーと口頭情報の差異を明文化し、訪問診療初回日までのつなぎケアを設計。
– BCP視点の確認
– 台風・大雪・地震などの警報が見込まれる場合、優先訪問・電話再評価・リスケの基準を前日に合意し、家族へ周知。
4) よくある落とし穴と対策
– 記録の後回し
– 対策 訪問直後の5分で要点を音声メモ→帰所後に正式記録へ。
SOAPの見出しだけでも先に埋める。
– 算定漏れ・要件不備
– 対策 終業前に「実績チェックリスト」で時間帯・複数名・特別管理・緊急の4点を必ず確認。
特別指示書の期限も赤色表示。
– 直行直帰のセキュリティ
– 対策 端末のフルディスク暗号化、二要素認証、公共回線でのVPN利用、画面のぞき見対策、紛失時のリモートワイプ。
– 情報の分断
– 対策 要注意利用者はダッシュボードにピン留め、明日担当者へToDo化。
利用者宅に置く記録書Iの記載基準を統一。
5) 根拠(法令・通知・ガイドライン等)
– 記録義務・保存
– 医療法および医療法施行規則 診療録(看護記録を含む)の整備義務と保存(原則5年間以上)。
電子保存は真正性・見読性・保存性の確保が要件。
– 介護保険法及び同施行規則 指定訪問看護の人員・設備・運営基準において、提供記録(提供日時、内容、所要時間、結果等)の整備・保存義務。
介護保険関係書類は少なくとも2年間の保存が必要。
加算根拠等は実地指導に備え5年間保存が推奨される実務慣行。
– 訪問看護の標準様式・記録の質
– 日本看護協会「看護記録の指針」 経時的・連続的記録、SOAP等の構造化記録、訂正・追記の手順、署名責任。
– 日本看護協会「訪問看護記録の標準様式」 訪問看護記録書I・II、訪問看護計画書、訪問看護報告書の活用と多職種連携に資する記載。
– 提供体制・連携・報告
– 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生省令第37号)内の指定訪問看護に関する基準 計画の策定・説明・同意、月1回以上の報告、緊急時体制、記録の整備に関する規定。
– 保健師助産師看護師法 医師の指示に基づく医行為の実施、指示の遵守と記録の必要性。
– 請求・加算の実務根拠
– 診療報酬・介護報酬の算定要件通知(厚生労働省告示・通知) 24時間対応体制加算、緊急時訪問看護加算、複数名訪問加算、特別管理加算、退院時共同指導等の算定要件と記録の要件。
– 医療情報セキュリティ
– 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」 電子カルテのアクセス管理、ログ管理、端末持ち出し、暗号化、VPN、事故時の対応。
– 個人情報保護法 利用目的の特定、安全管理措置、第三者提供の制限、漏えい時の報告等。
– 品質管理・BCP
– 日本看護協会「訪問看護ステーション管理運営の手引き」 日次ミーティング、カンファレンス、PDCA、教育・研修体制。
– 介護事業所における業務継続計画(BCP)策定のガイドライン 災害・感染拡大時の優先訪問・人員配置・代替手段。
実装のポイント(すぐに使える小技)
– 記録のテンプレート化 SOAPのS・O・A・Pごとにチェックボックスや定型語(例 疼痛NRS、吸引回数、排泄パターン)を事前登録。
– 5分ミニカンファ 今日の変化TOP3と明日の注意点TOP3だけを口頭共有し、要点をカルテ掲示板へ転記。
– タスクの見える化 医師照会・物品発注・計画書説明などは担当者と期限を記名で。
ホワイトボードや電子タスク管理で重複と漏れを防止。
– ハイリスク赤札化 看取り・退院直後・感染症・せん妄はダッシュボードで赤表示。
オンコールにも自動連携。
– 物品は「患者別ボックス方式」 翌日の訪問順に並べ、バーコードまたはリストでダブルチェック。
まとめ
– 終業前の「記録・振り返り・明日の段取り」は、安全で継続可能な在宅療養を支える背骨です。
ポイントは、今日のケアの根拠が伝わる質の高い記録、学びとリスクを翌日に活かす振り返り、そして明日の不確実性に先手を打つ準備です。
– 法令上の記録義務・保存要件、算定要件、情報セキュリティ、連携・報告の規定を押さえたうえで、現場ではテンプレート・ショートカンファ・タスク見える化・物品の患者別化などの工夫で生産性と安全性を両立させましょう。
– このルーチンが定着すると、監査や実地指導にも強く、チームの安心感と利用者アウトカムが確実に向上します。
【要約】
出勤後は手指衛生と体調確認。朝礼で申し送り・多職種連携・訪問順の最適化(感染順序配慮)・KYTを実施。指示書と記録を再確認し、処置物品・計測機器・医薬品・書類端末を清潔/不潔分けで点検・携行。廃棄物区分と回収方法を事前確認。個人情報は最小限・施錠、端末はパスコード等とオフライン記録手順を整備。気象・交通情報も確認し、免疫低下者は早め、感染疑いは最後に訪問。駐車条件や住環境の危険も共有し対策。